惰性の実践を捨てよ|本当の実践のみが習慣をつくる

惰性の実践を捨てよ|本当の実践のみが習慣をつくる

タレントダイナミクス基礎研修

おはようございます。Life Quest Allianceの福永です。

経営者やリーダーの皆様は、非常に勉強熱心な方が多いと感じます。
最新のビジネス書を読み、セミナーに通い、そこで得た知見を現場に取り入れようと日々奔走されています。
私自身も楽天での19年間、そして独立してからのコンサルティング活動を通じて、数多くの「学び」を組織に落とし込んできました。

しかし、ここで一つ、皆様に問いかけたいことがあります。
「学んだことを実践しているのに、なぜか組織も自分も変わらない」と感じたことはありませんか?

スティーブン・R・コヴィー博士の名著『7つの習慣』においても、著者は「この本は読むものではなく、実践するものだ」とおっしゃっています。
知識を頭に入れるだけでは意味がなく、行動に移して初めて価値が生まれる。
これはビジネスにおいても私生活においても鉄則です。
ところが、実際にはこの「実践」という言葉の裏側に、ある大きな落とし穴が潜んでいることがあります。

それは、「惰性の実践」という罠です。

惰性の実践を捨てよ|本当の実践のみが習慣をつくる

新しい知識やメソッドを取り入れた当初は、誰もが意識的に、緊張感を持って取り組みます。
例えば、私のコンサルを受けてPDCA-S(仮説・実行・検証・仕組化)を導入した企業でも、最初は「仕組化」の素晴らしさに心躍り、社員一丸となって業務の無駄を削ぎ落とし、マニュアルを整備し、改善を繰り返します。

しかし、時間が経つにつれ、その「実践」がいつの間にか「作業」に変わってしまうことがあります。
「マニュアルがあるから、その通りに動く」 「チェックリストがあるから、機械的に印をつける」 「毎週のミーティングが決まっているから、とりあえず出席する」

これらは形の上では「実践」ですが、その実態は「惰性」です。
実は、この段階が最も危険なのです。

楽天でエンジニアリーダーをしていた頃、部下がシステムのリリース作業を行っていました。
リリース手順には何か不備があればすぐに気付けるよう、各コマンドの合間に確認用のコマンドを盛り込んでいました。
それなのに不具合が起きてリリース作業は失敗。サービスにも影響を出してしまいました。
事態を収拾した後に作業ログを確認した所、確認コマンドは実行され、想定外の差分が発生していることも出力されていました。
しかし、リリース担当者は手順に沿ってコマンドを実行していただけで、出力された情報に意識を払っていなかったのです。

手順やルール、日々の実践など、決められたことを「やっているつもり」になっているとき、私たちは成果が出ない理由を外部に求め始め、それらの実践には意味がないことだと思いがちです。
もちろん、間違ったやり方をしてしまっていたり、もはや意味のない仕組みになっていたりするものもあります。
しかし、時として私たちの内面にある「心の曇り」に原因があることもあるのです。

私の毎朝欠かさず続けているルーティンの一つに、洗面所の掃除があります。
一見、ビジネスとは何の関係もない些細な習慣に思えるかもしれません。
しかし、私にとってこの時間は、その日一日の自分のマインドを決める極めて重要な儀式になっています。

鏡を磨くとき、鏡には私自身が映っています。
なので、私は「鏡の汚れを落とす」のではなく、「自分の心」を磨くつもりで掃除をします。

もし、適当にサッと拭いて汚れや曇りを残したままにしてしまえば、それは私の心の曇りそのものです。
「今日は忙しいから」「誰も見ていないから」と手を抜けば、その日の商談も、クライアントへのコンサルティングも、部下へのフィードバックも、すべてが「片手間」になってしまう。
その微細な妥協が、経営判断に狂いを生じさせ、組織の仕組みに歪みを作ります。

偉大な宗教改革者マルティン・ルターは、「今日はあまりにもすべきことが多いから、一時間ほど余分に祈りの時間をとらなければならない」と言ったという。

『7つの習慣』

普通なら、忙しい時ほど祈りや内省の時間を削り、目の前のタスクを処理しようとするでしょう。
しかしルターは、大変な時ほど自分の心と向き合い、その中心を整える必要があると考えました。
心が乱れたまま10時間働くよりも、心を整えてから9時間働くほうが、はるかに本質的で質の高い仕事ができることを知っていたのです。

これは現代の経営者にも全く同じことが言えます。
売上の減少や採用難といった課題に直面したとき、私たちは焦って「手当たり次第の実践」に走りたくなります。
しかし、焦りから生まれる行動は、往々にして「仕組み」ではなく「その場しのぎ」になりがちです。

心を込めて実践する。
その対象が、顧客へのメール一通であっても、社内の清掃であっても、あるいは戦略の立案であっても同じです。
そしてその実践が無意識でできるようになったものを「習慣」と呼びます。

ここで勘違いしてはいけないのは、「無意識にやる=適当にやる」ではないということです。 本当の意味での「習慣」とは、高い意志を持って繰り返された結果、その人の「血肉」となり、努力感なしに高いクオリティを維持できるようになった状態を指します。

惰性で行っているものは、決して習慣にはなりません。
なぜなら、そこには「意志」がないため、少し状況が厳しくなったり、面倒になったりすると、簡単に止めてしまうからです。
あるいは、形だけ続けていても、そこから新しい気づきや改善(PDCAの「検証」)が生まれることはありません。

どうせ同じ時間を使うのなら、その実践を自分の血肉に、そして組織の文化にするために使いませんか?
「仕組み化」とは、単にツールを導入することではありません。
リーダーがどのような心持ちでその仕組みに向き合い、どれほどの熱量を込めて運用し続けるか。
その「在り方」が、仕組みに命を吹き込むのです。

経営者の仕事は、孤独で終わりのない旅のように感じられることもあるでしょう。
しかし、毎朝、鏡を曇りなく磨き上げるように、自分の心と組織の仕組みを丹念に磨き続けるならば、その輝きは必ず社員に、そしてお客様に伝わります。

今日、あなたが取り組むその「実践」は、作業になっていませんか?
もし少しでも「惰性」を感じたら、一度立ち止まって、自分に問いかけてみてください。
「私は、何のためにこれをしているのか?」

今日という一日は、あなたの貴重な命の時間そのものです。
その時間を、ただ消化するのではなく、自分の魂を磨くために使っていきましょう。
曇りのない澄み切った心で向き合えば、昨日まで見えていなかった「次の一手」が、鏡のように明快に映し出されるでしょう。


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