ChatGPTを初め、多くの生成系AIがその機能と性能を向上させている中で、コーチング業界でもAIの活用は必須なものとなっています。
この記事では、コーチングにおけるAIの活用法と課題、またAIがコーチング自体を行う世界の到来に向けて、コーチとして何を準備しておくべきかについて探求していきます。
コーチングにおけるAIの活用
まず、コーチング業界において、AIをどのように活用していけるのか見ていきましょう。
データ分析とパーソナライズ
AIは人間よりも大量のデータを迅速に分析することができます。
コーチングのセッションデータをAIに読み込ませることにより、以下のような処理を行わせることができます。
コーチングセッションの分析
コーチングセッションで話された内容をまとめたり、クライアントのTODOを一覧化したりすることで、クライアントは自分の話した内容を後から振り返ることができます。
また、コーチもクライアントが話す内容や過去からの変化を分析することで、個々のクライアントに特化したコーチングプランを提供し、クライアントの成長を最大限に引き出すことができます。
法人契約などで企業に提出するレポートなどがあれば、その作成をAIにお願いすることも、コーチが効率的に仕事をする助けとなります。
コーチングスキルの向上
セッションの分析はクライアントの動向を可視化できるだけでなく、コーチとクライアントの話している割合や質問の数などを見える化することもできます。
これにより、コーチは客観的に自身のセッションを振り返ることができ、さらなるコーチングスキルの向上が目指せます。
また、世界中のコーチのセッションをビッグデータとして活用できるようになれば、自身のコーチングの世界のベストプラクティスを比較してアドバイスを受けることもできるようになるでしょう。
この点はICF(国際コーチ連盟)など国際的な機関にに頑張ってもらいたいところです。
バーチャルアシスタントとチャットボット
バーチャルアシスタントやチャットボットは、クライアントの質問に迅速に対応し、AIコーチよりアドバイスを受けることができます。
これにより、クライアントは時間を気にせず、いつでも好きな時に知りたい情報や簡易的なコーチングを受けることができるようになります。
また、予約の調整やセッションで設定した行動計画の管理なども行えるようになるでしょう。
コーチにとっては、簡単な質問をAIに任せることで、クライアントのより高度な課題に時間を使うことができます。
トレーニング・シュミレーション
AIを活用したトレーニング・シミュレーションは、クライアントが意思決定や対話を練習する機会をロールプレイとして提供できます。
これにより、対人関係やプレゼンなどのリスクを最小限に抑えつつ、実践的なスキルを習得すしたり、リハーサルを行ったりできます。
また、コーチもクライアント役のAIとセッションを行うことで、コーチングスキルを向上できます。
セッションの終わりにはセッション内容を分析し、振り返ることもできるでしょう。
AIコーチの登場とその影響
近年ではAIをコーチの業務アシスタントとして扱うだけでなく、AI自身がコーチとなりクライアントとコーチングを行える段階まで来ています。
AIコーチの登場により、コーチング業界がどのように変化するのか見ていきます。
コーチングの普及
従来のコーチングは個人が受けるサービスとしては比較的高価な部類に入ります。
今の状況を本気で変えたい人や、ビジネスパーソンでも管理職などの利用が主でした。
AIコーチは、開発や運用にコストはかかるものの、人的コストがない分、比較的安価に提供することが可能です。
導入当初は高額になる可能性はありますが、単体での利用は徐々に日常的に利用できる価格にまで下がっていくでしょう。
これにより、より多くの方が気軽にコーチングを受けることができるようになります。
また、時間帯や言語の壁も無くなるため、世界中にクライアントを持てるようになり、コーチにとってはビジネスチャンスが広がります。
コーチの役割の変化
基本的なコーチングをAIが行うようになると、コーチはより高度なコーチングに時間を使うことができます。
これにより、コーチングセッションの品質が向上したり、より多くのクライアントを持てるようになります。
一方で、ただ型にはまった質問しかできないコーチは、AIコーチに仕事を奪われることになります。
すでに単純なコーチングはAIの方が効率的というレポートまであります。
Would you trust big work-life decisions to an AI coach? (freethink.com)
コーチは自身のコーチングスキルを向上させ、より付加価値を生み出せるサービスを提供することが求められるようになります。
倫理的課題
生成系AIの普及に伴い、世界中でプライバシーやデータセキュリティに関する懸念が高まっています。
これはコーチングのAI活用でも同じことです。
AIを効果的に活用するためには大量のデータを溜めなければならず、その利用についてもプライバシーやセキュリティは重要な課題となっています。
また、AIの判断が人間のコーチと同等の倫理的配慮を持つかどうかも問われるポイントです。
これらの課題に対処するためのガイドラインや規制が求められており、コーチング領域でのAI活用に関する議論が海外では進められています。
海外のAIコーチ活用状況
AIコーチングサービス
現状、AIは完全に人間のコーチングを代替するものではなく、人間中心のコーチングアプローチを支援するツールとして使われています。
代表的な企業に CoachHub があり、パーソナライズされた効果測定可能で拡張性のあるデジタルコーチングプログラムを提供しています。
世界中の企業が利用しており、従業員のパフォーマンス向上とリーダー育成をサポートしています。
こちらは日本でもサービスを展開しており、日本語でサービスを受けることができます。
また、コーチのトレーニングとして利用できそうなサービスとしてOVIDAがります。
ICF(国際コーチ連盟)のコンピテンシーに基づくコーチングセッションの評価を高速かつ高精度に行うAIツールを提供しています。
専用のセキュアなビデオルームを活用し、安全なコミュニケーションを保証しています。
Coachvox AIはAIコーチを作成するサービスのひとつで、自分自身のAIバージョンを作成できるサービスです。
訪問者をリードに変え、クライアントへの24/7サポートを提供し、コーチのコミュニティ内の質問に答えます。
これにより、ブランドを強化し、ビジネスをスケールすることが可能となります。
ミシガン大学の事例
AIコーチングとはいえ、質問に答えたりアドバイスを行うサービスが多い中で、ミシガン大学では、学生の質問に答えるのではなく、問題の背後にある概念の枠組みを理解し、類似した問題に学生自身が取り組めるように導くAIコーチを開発しています。
University of Michigan is Developing an AI Coaching Bot For Students (datanami.com)
このモデルが、現時点ではAIコーチの理想に近いのではないかと感じています。
AIコーチングの限界
現在の生成系AIは線形のプロセス、つまり論理的な思考に依存しているため、人間のように直感や全く違うもの同士を結びつけて連想することは今のところできません。
よって、AIコーチが人間と同等のより複雑で変容をもたらすようなコーチングを行うには、汎用人工知能1の登場を待たなければいけないと言われています。
しかし、ある一定の科学者の間では、2045年にシンギュラリティ2が起こると言われ続けています。
その10年くらい前から社会に変化が現れ始めると言われており、さらにシンギュラリティが起こる年も10年ほど前倒しになるのではとも。
そう考えると、変化が起こり始めるのは2025年と目と鼻の先の話となります。
汎用人工知能が開発され、シンギュラリティが起こると、現在のAIコーチングの限界は取り払われるかも知れません。
コーチのパートナーとしてのAI
シンギュラリティが本当に起こるのかは未だ議論の渦中ですが、AIがコーチング業界の中で重要な地位を占めていくことは確かです。
AIを使うことが当たり前の時代になる中で、コーチングセッションの単価も下がっていくでしょう。
その際、AIを用いた効率化が行われていなければ、他より非効率なのに高単価な商品設計を続けざるを得なくなってしまいます。
すでに、AIを使う使わないの段階ではなくなってきているのです。
しかし、コーチはAIを脅威と取る必要はありません。
このような状況の中で、コーチはAIをパートナーとして考えましょう。
ここまで見てきたように、AIはセッションを分析し、要約したログを書き、クライアントの簡単な質問にコーチの代わりに答えてくれるアシスタント的な存在になり得ます。
また、目標を具体化したり、悩みを聴き取る部分をAIが担当し、より探求が必要と感じた際に人間のコーチにバトンを渡すことで、人間とAIが共存してコーチングを行えるようになります。
AIにできることはAIに任せることで、私たちはクライアントにより高い価値を提供し続けられるのです。
AIはコーチの仕事を奪うものではなく、コーチの仕事を支援し、よりよいコーチングをクライアントに提供するためのツールとなるのです。
AI時代到来に向けて、コーチが取り組んでおくこと
まずはAIを使ってみましょう。
iPhoneのSiriやGoogleアシスタントもAIです。
ChatGPTなどの生成系AIを使うでも良いでしょう。
Microsoft 365に入っていれば、Copilotを利用できます。
ChatGPTもCopilotも制限はありますが無料でも使えますので。
AIを使ってみた上で、それを自分のサービスにどう活用できるか検討してみましょう。
生成系AIを使えば、クライアントへのメールやブログ記事を書いてもらうこともできます。
Zoomは有料アカウントを持っていれば、Zoom AI Companionを利用することができ、セッションの要約などを行ってくれます。
まだコーチの代わりをさせることは敷居が高いですが、コーチの業務をサポートしてもらえる部分はいくつもあります。
まずは、これらを体験してみることをオススメします。
また、将来AIコーチに取って代わられないために、サービスの付加価値を上げることやコーチングスキルの向上も必要です。
AIにサポートしてもらうことで、これらの活動に時間を費やすこともできるようになります。
AI利用が広まれば、基本的なコーチングでの差別化は不可能になります。
その際問われることは、やはりコーチの腕になりますから。
AIは確実にコーチング業界に変革をもたらします。
しかし、コーチはこれを脅威ではなく機会と捉えることが重要です。
そのためには、今からAIに触れ、使えそうな場面で利用し、試行錯誤を繰り返しておくことが重要です。
将来、より簡単にAIをコーチングの業務として利用できるようになった際、AIと人間が共存することで、クライアントにとって前例のない価値を生み出せるでしょう。
そのためには、先んじて準備を行い、新たな時代をリードできるコーチとして成長しておくことが必要です。
私も現在AIクローンコーチを作成しています。
こちらは上記で紹介した Coachvox AI を利用しています。
まだ思うように行かない部分もありますが、少しずつサービスとして使えるように育てていきたいと思っています。
もし、よろしければ以下より体験してみてください。(2024年7月現在は無料で提供中)
脚注