「守」のない学びの先にあるのは「破」滅

自己流は事故る

「守破離」という言葉をご存知でしょうか。
「しゅはり」と読みます。

もとは千利休の訓をまとめた『利休道歌』にある、「規矩作法 り尽くしてるともるるとても本を忘るな」を引用したものとされている。

守破離 – Wikipedia

日本の茶道や武道などの修行における過程を示したものですが、私たちが何かを習得する際すべてに大切な考え方です。
このプロセスは以下の3段階を踏みます。

  1. 守:教えを守り、技術・知識を定着させる
  2. 破:自分なりの工夫をしてみる
  3. 離:新たな技術・知識(の型)を生み出せる

何かを習得しようとする際に最も大切になるのは、やはり最初の「守」になります。
しかし、ここが一番難しくもあります。

学びの質を低減する、豊かな知識と経験

私たちはこれまでの人生の中で様々な知識を得て、多くの経験をしてきました。
新たな学びから次なる高みへと行くことができるのは、これらの土台があってこそです。

一方で、これまでの知識や経験は、新たな学びに対して勝手な解釈を起こしてしまいやすくもあります。

「先生はこう言っているけど、自分はこう思う」
「これまでの経験上、こうした方がうまく行くはず」
「言っていることはわかるけど、自分の状況には合わない」

など、新たな学びから習得できる知識やスキルに対して、これまでの知識や経験から勝手な解釈やアレンジを加えてしまいがちです。
これまでの経験を元に、本来学ぶべき型とは外れたことを実践してしまうと、新たな学びを最大限活かすことができなくなります。
さらに、新たな学びを中途半端に取り入れてしまうことで、最悪の場合、これまでうまくできていたことも改悪されてしまいます。

「型があるから型破り、型がなければ形無し」と言われます。
しっかりと型ができたモノ同士を組み合わせるから、シナジーが起こり新たな型に昇華します。
型ができていないモノをいくら組み合わせたところで、型が崩れていくだけです。

新たな知識やスキルを純粋に学ぼうとする際、時としてこれまでの知識や経験が大きな足かせになることもあるのです。

素晴らしい手法も、他人の成功事例でしかない

新たな知識やスキルを純粋に学ぼうと思っても、「この内容は先生だからできることで、自分の環境では使えない」などと思ったことはありませんか?
この感想はアンケートなどに明確に書かれることはあまりありませんが、最も多い感想なのではないかと思います。
実は、この感想は正しい感想でもあるのです。

そもそも、研修などで教えられていることは「他の人」がやってうまくいったことです。
もちろん、多くの受講生や事例を集約し抽象化することで、多くの人にとって再現性があるものになっていることは確かです。
しかし、抽象度が高いと理解しにくいため、具体性を持たせることになりますが、結果としてそれが人を選ぶことにもなってしまいます。
わかりやすさのための具体性が「自分の環境には合わない」という発想を生み、「守」を崩してしまうことにつながります。

研修で教えられている内容は他人の成功事例の集約であり、自分の環境で「そのまま」使えることは少ないという前提で学ぶことが必要なのです。

自分との差が大きいからこそ、成長の種がある

他人から受けるアドバイスも同様ですが、世にある成功事例は「その人の知識と経験、そしてその時の状況が組み合わさって成り立っている」ものです。
それをそのまま真似ようとしても、知識と経験と状況の差によってうまくはいきません。

活きるアドバイスとは 活きるアドバイスとは:ただ伝えるだけでは自己満足にしかならない

そして、この差分が大きいと「私には合わない」となってしまい、実践を諦めたり勝手なカスタマイズを行ったりしてしまいます。
結果として、お金と時間をかけたことが、何も生み出さないか効果の薄いものになってしまうのです。

しかし、簡単に真似できたり、すぐに適用できる知識やスキルは、今の自分をどれくらい成長させてくれるものでしょうか?
一方で、今の環境に合っていない、自分にはできないと思い込んでいるモノは、どれくらいの成長をもたらしてくれるでしょうか?

その研修やアドバイスを受けた目的を考えたとき、今の自分との差が大きい方が、難しさと同時により大きな成果をもたらしてくれる可能性をも秘めています。
「自分には出来ない」「自分の環境には合わない」と思えたときほど、学びが最大化する可能性があるのです。

自分の環境でどう使うかを問うことが「守」のキモ

他人の成功事例でしかない学びで「守」を実践するには、「自分の環境でその学びをどう使っていくか」を問うことが大切になります。

私たちは自然と研修やアドバイスの内容を自分たちの環境や状況に合わせて実践しています。
しかし、その差が大きく難しくなると、諦めてしまいがちです。
良い研修だったね」という感想とともに二度と開かれないテキストが棚にしまわれ、古き良き思い出となります。

この状況を回避するためには2つの方法があります。

  1. 自分で試行錯誤する
  2. 講師に訊く

1つは自分で試行錯誤することです。
「自分の環境でその学びをどう使っていけるのか?」と自分に問いながら、試行錯誤を続けて実践を繰り返します。
実践を続けていくうちに、新たな知識やスキルが馴染んでいくでしょう。
ここで気をつけるポイントは我流に陥らないことです。
多少のカスタマイズは必要ですが、本質から離れてしまうと、やはり効果は薄れてしまいますので。

2つ目は講師や先輩に自分の状況を伝えて、どう活用したら良いかを訊ねることです。
過去に似たような状況を持った受講生がいたかもしれません。
講師や先輩に訊くことで、より自分の状況にあった具体的なやり方を引き出せます。
もちろん、前例がない場合もありますが、その後も気にかけてもらえたり、質問もしやすくなります。

いずれの場合にも、自分の環境でどう使えるかを考え実践することで、「守」を行っていくことが大切です。

「破」に行くタイミングは結果が出てから

では、いつまで「守」を行い続けなければいけないのでしょうか。
これは教える人によってマチマチなので一概には言えませんが、私は「その型で再現性のある結果が出せる」ようになってからだと考えています。

「破」は自分なりの工夫をしていく段階ですので、元の手法に変化を加えます。
この時、「守」において結果をせる再現性のある型を持っていることが大事になります。
もし「守」において結果が出ていない段階で「破」に移ってしまうと、うまく行かなかった時に戻る型がありません。
よく分からない中での試行錯誤が続き、どんどん型が崩れていきます。
「守」がない「破」は、ただ「破滅」に向かうだけなのです。

「守」で結果が出せていれば、「破」でうまく行かなくても、元の型に戻ればよいだけになります。
結果が出せていた型にいつでも戻れることは、安心して「破」に挑戦できることでもあります。
その観点で、私は「破」に移るタイミングは「守」で再現性のある結果が出せてからと考えています。


守破離を行うにあたっては、「本を忘るな」と利休の言葉にもあるように、「守」から「破」そしてその先の「離」に至るまで「本質」からは外れないことが大切になります。
そのためには「守」で再現性のある型を修めておくことは必須要件なのです。

私たちの周りは多くの学びで溢れています。
その一つひとつに対して「自分の環境でその学びをどう使っていくか」を問えれば、たくさんのものを吸収して、あなた独自の知識とスキルを身につけていけるでしょう。
ぜひ、新たな学びに「ムリ!」と答えず、一歩一歩成長していきましょう。

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